FXには様々な手法があり、長期投資もその一つです。
株式投資などでもおなじみです。そこで、長期運用のやり方のコツや、メリット・デメリットを確認しましょう。
FXの長期投資とは
FXの長期投資とは、一般的に、取引の開始から終了(決済)までの期間が長い取引を指します。
どれくらい長いかというのは、人によって異なります。スキャルピングに没頭している人から見れば、1日でも長期です。しかし、一般的には、長期投資と言えば1年以上を指す場合が多いでしょう。
というわけで、この記事でも、「長期=1年以上(状況によっては10年以上も可)」とします。
ただし、例外もあります。長期リピート系FXです。長期リピート系FXは、短期間の利食いを自動売買で延々と繰り返す方法を指します。
FXの長期投資に必要なもの
では、FXの長期投資に必要なもの・重要でないものを、確認しましょう。
必要なもの
・いくらかの資金
・長期チャートを表示できるFX口座
・スワップポイントが不利でないFX口座
重要でないもの
・狭いスプレッド
・高性能ツール
重要でないものから、考察します。
FXの長期投資ではスプレッドは重要度が低い
FX会社を比較する場合、最も重視されるものの一つはスプレッドです。投資家から見てスプレッドはコストそのものですから、スプレッドが狭い方が良いです。
投資家のこのニーズに応えるべく、各FX会社はスプレッド競争を繰り広げてきました。
日本で個人向けFXが解禁された1998年以降しばらく、米ドル/円のスプレッドは1銭~2銭くらいでした。ところが、現在の米ドル/円のスプレッド競争の最前線は、0.1銭です。
ところが、長期投資の場合、極論すると「スプレッドはどうでもいい」です。と言いますのは、1回の利食いで目指す利幅は、最大で数千pips(数千銭)にもなるからです。
具体的に、豪ドル/円のチャートを見てみましょう(DMMFXから引用)。1991年以降の表示ですから、大変な長期です。
過去30年くらいに渡って、円高の限界は55円くらいだと分かります。今後も円高の限界値は55円くらいと見込んで、期待通りに55円で買えたとしましょう。
そして、値動きの上限は110円弱です。ここでは、仮に105円で売れたとします。
この場合、利幅は50円(5,000銭)にもなります。5,000銭も利幅があるなら、スプレッド競争で0.1銭の大きさに意識を向ける必要はありません。誤差です。
この例では、過去30年の最安値と最高値で売買できるという想定です。もうすこし現実的にして、60円で買って100円で売るという例にしても、利幅は40円(4,000銭)あります。
やはり、スプレッドで0.1銭でも狭いFX口座を探す必要はありません。長期投資では、スプレッドは無視でも構わないくらいです。
FX長期投資には高性能ツールも不要
また、高性能ツールも不要です。例えば、チャートに数多くのインジケーターを表示できなくても構いませんし、デザインが洗練されていなくても構いません。
長期投資は売買チャンスが比較的長期間続くので、「このタイミングを逃さずに取引しなければ!」という状況は稀なためです。
先ほどの豪ドル/円の例ですと、買う時の為替レートを55円にしたり60円にしたりしました。その差は5円(500銭)もあります。
500銭の差があっても、大きな利幅を狙えることに変わりはありません。そして、500銭もの値動きをするには、通常は何週間もかかります。
すなわち、仕事や学校から帰ってきてからチャートをのんびりと確認し、「もう買ってもいいかな?」と感じたら、そこからゆっくり買えばOKです。
このようなトレードにおいては、高性能ツールは不要です。成行注文・指値注文など、基本的な機能があれば十分です。
以上、一般的には重要とされる2つが、長期投資においては重要でないという結果です。次に、長期投資において重要な項目を確認しましょう。
FXで長期投資をするにはいくらかの資金が必要
FXですから、資金が必要です。
では、どれくらい必要でしょうか。100円単位の小ささでも可能です(100円だと、資金が2倍になっても200円ですから、実際にはもっと大きな資金を投入することになりますが)。
例えば、先の例で、豪ドル/円=60円で1万通貨買って、100円で売る場合を想定します。
取引例
【取引額】
60円×1万通貨=60万円
【必要な資金】
レバレッジを2倍にする場合、必要な資金は30万円
【利食い額】
(100円-60円)×1万通貨=40万円
1万通貨の取引で、利食い額は40万円となりました。これにスワップポイントが加算されます。買って放置しただけで資金量が2倍以上ですから、悪くない取引です。
30万円を準備するのは厳しいなあという場合は、3万円で1,000通貨買うという選択もできます。資金量に応じて柔軟にトレードできるのが、FXの長期投資のメリットです。
このように考えると、必要な資金量については、「許容できるリスクの範囲内なら、いくらでもOK」ということになります。
【重要】長期チャートを表示できること
長期投資ですから、チャートの表示期間も長期が必要です。では、どれくらい長期が必要でしょうか。
これを考察するために、現行の外国為替制度が公式に始まった1976年以降の米ドル/円を確認しましょう。
上のチャートを見ますと、過去45年間のチャートを2つに分けられると分かります。すなわち、前半は大きな円高時代、その後はレンジの時代です。
現在はレンジの時代ですから、はるか昔の円高時代のチャートは重要度が低いと分かります。米ドル/円=300円のデータを細かく分析しても、今の相場に当てはめるのは難しそうです。
では、円高からレンジに移行したのはいつか?ですが、1990年代前半です。バブル経済が崩壊した頃です。
ということは、必要なチャート表示期間は30年またはそれ以上ということになります。
なお、「20年チャートではダメか?」ですが、20年でもできます。30年チャートを表示できるFX会社は少数派ですから、現実的には20年チャートで分析することが多くなるかもしれません。
しかし、20年チャートを使うと、長期チャートがレンジに移行した最初の10年間を見られません。この場合、何か大きな見落としが出てしまうかもしれませんので要注意です。
カナダドル/円の長期チャート
20年チャートでは見落としがあるかも?の例として、カナダドル/円を使います(下のチャートはM2Jから引用)。
チャート内に、赤の縦線を引きました。2000年1月くらいです。それ以降の20年くらいを見ますと、最安値は2008年のリーマンショック時(68円くらい)に見えます。
しかし、本当の安値は、チャート左の赤丸部分です(1995年の60円)。
安値を見極めるコツ:本当の超円高がやってくる時の心構え
超巨大なショックだった2008年のリーマンショック時の安値が68円ですから、今後も68円を安値の基準にすれば良いかもしれません。
しかし、60円が本当の安値だと知った上での68円基準採用と、68円が最安値だと誤認したうえでの68円基準採用では、本当に超円高がやってきたときの動揺は、大きく異なるでしょう。
「1995年の安値が視野に入ったか…(ある程度想定済みだし、何とかなるかな)」となるか、「えっ?過去最安値の68円を超える円高?どこまで円高になるか分からないから困った!」の違いです。
落ち着いて考える方が、より良い相場判断ができるでしょう。
ちなみに、なぜ1995年に円高記録を作ったか?ですが、阪神・淡路大震災がきっかけです。震災後しばらくしてから、一気の円高がありました(チャートの赤丸内で、急落している様子が分かります)。
【重要】スワップポイントが不利でないFX会社
では、引き続き、長期投資に必要な条件を見ていきましょう。顧客にとってスワップポイントが不利でないFX会社です。
長期投資ですから、ポジション保有期間は年単位になる場合があります。状況によっては、10年を超えることもあるでしょう。
他社に比べてスワップポイントが不利なFX会社で取引すると、同じ取引をしてもスワップポイントの差で獲得額に大きな差が出る可能性があります。
長期的に低金利時代が続いていますから、以下のパターンもあり得ます。
・スワップポイントの比較
顧客有利なA社:ギリギリながらプラスを維持
顧客不利なB社:マイナスで推移
額は小さいとしても、プラスかマイナスかというのは大きな違いです。スワップポイント損を毎日計上し続けるか、それともプラスを継続するか、どちらが良いか?という話になります。
ただし、将来の長期間に渡ってスワップポイントが有利なFX会社を探すのは、困難です。
そこで、実績値として、「他社に比べて著しく不利でないFX会社」という視点で探すのが現実的です。
FX長期投資のやり方・コツ
では、FXの長期投資のやり方を、具体的に見ていきましょう。
FX長期投資①:長期チャートを調査
投資の基本は、「安値で買って高値で売る」です。FXでもこの基本は同じです。ただし、FXは売りから始めることもできますので、「高値で売って安値で買い戻す」という選択肢もあります。
以下、「安値で買って高値で売る」という想定で話を進めます。
現在の為替レートが安値かどうかを知るには、どうすれば良いでしょうか。答えは、長期チャートを見ることです。
通貨ペアの選択(検討)
既に確認しました通り、安値を正確に知るために、30年チャート(またはそれ以上のチャート)で確認するのが望ましいです。
すると、通貨ペアを下の通り分類できるでしょう。
- 今が買い時に見える
- 今は買い時でないが、どこまで下落したら買い時なのか、何となく分かる
- チャート形状を見ても、買い時が分からない
ここで、先ほど使った豪ドル/円のラインチャートを見てみましょう。
このチャートで判断すると、赤枠部分が歴史的安値だと分かります。そして、この辺りまで円高が進むと、なぜか円安に反発しています。
ならば、為替レートがこの辺りまで円高になったら、買いを検討できます。しかし、現在の為替レートは赤丸部分です。
すなわち、このチャートを見ている時点では、まだ買えないという判断になります。
分割買いでトレード
ただし、このチャート形状を見て、どうしても買いたいと感じたとしましょう。
豪ドル/円の値動きは55円~108円くらいの範囲で動いていますから、平均値は80円くらいです。そして、現在の為替レートは80円よりも円高ですから、買っても良いのでは?という判断です。
こういう場合は、少しずつ買うことが選択肢になります。
トレードのコツ
例えば、全部で10万通貨買いたいなら、現在の為替レートで1万通貨だけ買うという具合です。そして、現在よりもある程度円高になったら再び1万通貨買う(以下繰り返し)です。
このメリットは、歴史的な最安値が実現しなくてもトレードができることです。買ってから大幅円安になれば、大きな利食いを得られます。
また、買った後に円高になっても、資金を残してあります。徐々に買っていけば、買値の平均値を引き下げられます。
円高になっても良し、円安になっても良し、という考え方です。
FX長期投資②:スワップポイントを調査
次に、スワップポイントを確認します。
安値で買ってから高値になるまでに、年単位の時間が必要になるかもしれません。その間、スワップポイントがずっとマイナスだったら、とても苦痛です。
この苦痛は、不確実性が大きく影響しています。
- 将来の為替レート:不確実
- 毎日のスワップポイント:確実
仮に、為替レートが期待外れで下落し続けてしまい、スワップポイントもずっとマイナスだったら、あまりに痛いです。
そこで、可能なら、スワップポイントが継続的にプラスになるように取引します。
しかし、将来のスワップポイントがどうなるか、それは誰にも分かりませんし、調査しようがありません。そこで、過去の推移を確認します。
ここでも、問題が出てきます。と言いますのは、過去10年以上のスワップポイントを公開しているFX会社はほとんどないうえに、スワップポイントの大きさはFX会社ごとに大きく異なるからです。
そこで、便宜的に、政策金利を使って確認します。
スワップポイント把握のコツ
スワップポイントは、日々の短期金利を使って計算されます。よって、政策金利を使ってスワップポイントを決めるわけではありませんが、政策金利は短期金利に対して大きな影響力を持っています。
よって、各国の政策金利差を調べることにより、スワップポイントの大雑把な傾向を把握できます。
この記事では豪ドル/円を例としていますので、日豪の政策金利を比較してみます。
日本と豪州の政策金利を比較
日本は0%近辺で推移している一方、オーストラリアはプラス圏で推移しています。
グラフの右側を見ますと、世界的な問題を受けて政策金利が低くなっていますが、これはオーストラリアだけでなく世界的な傾向です。
ここで重要なのは、過去数十年に渡って、オーストラリアの政策金利が日本よりも常に高かったという事実です。
今後はどうなるか不明ですが、上のグラフで判断する限り、日豪政策金利差が大きく逆転する可能性は低めなのでは?と想定できます。
FX長期投資③:その他の情報を考察
長期の為替レート、そしてスワップポイントを確認した後は、その他の情報を総合的に考えます。
例えば、今後の日本やオーストラリアの経済はどうなるだろう?といったことです。不確実性が大きいですが、可能な範囲で考えます。
参考になる主な経済指標は、政策金利のほかに雇用統計があります(失業率や雇用者数の推移を確認できます)。
各国で数多くの経済指標が発表されますが、全てを把握するのは困難です。超重要指標を長期的に眺めて、トレード可否を判断します。
手順1~3を経て、特定の通貨ペアで取引してもOK!と判断したら、少しずつ取引して長期保有します。大きく買うのも検討できますが、損したら痛いです。
安全運転重視で、少しずつ買います。
FX長期投資 まとめ
重要事項 | 非重要事項 |
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・長期チャート ・スワップポイント推移 | ・取引ツール ・スプレッド |
FXの長期投資には、短期トレードと異なる特徴があります。それは、スプレッドや取引ツールが重要でないという点です。
その一方で、長期チャートやスワップポイント推移が重要です。
スワップポイントはFX会社ごとに異なるうえに、過去10年以上のデータを探すのは困難です。そこで、政策金利を使って大まかな傾向を把握します。
あとは、経済状況を考えたうえで、資金管理に気を付けつつ取引開始です。結果を(年単位で)待ちましょう。