ポンド/円は、米ドル/円に次いで人気のある通貨ペアです。そこで、長期的な視点からポンド/円を確認しましょう。そして、今後の値動きを予想します。
ポンド/円の人気度米ドル/円に次ぐ取引量
最初に、ポンド/円の人気度を確認しましょう。下のグラフは、FXの業界団体「金融先物取引業協会」が公開している2019年の取引高を集計したものです。
日本のFXで圧倒的に人気があるのは、やはり米ドル/円で、取引全体の半分以上を占めています。2番目に多いのが、ポンド/円です。
第3位のユーロ/円と比較して、3倍もの取引高があります。人気の理由は定かではありませんが、少なくとも下の2つを理由にできるでしょう。
- 値動きの大きさ
- 先進国通貨ペアの安心感
ポンド/円のチャート分析
では、ポンド/円の値動きをチャートで確認します。最初に超長期チャートで概観し、徐々に短期チャートに移行します。
1976年以降【45年チャート】バブル崩壊を経て500円台から100円台に
下は、1976年以降のチャートです(DMMFXから引用)。表示期間が長期間ですので、見やすさ重視で、ラインチャートにしています。
現行の外国為替制度が事実上始まったのは、1973年です(公式には1976年から)。すなわち、下のチャートは、現行の外国為替制度が開始されて以降の値動きを示しています。
ポンド/円=500円台からの急落
値動きは、大きく2つに分けることができます(赤矢印)。
1990年代前半までは、概ね急激な円高でした。目盛を見ますと、ポンド/円=500円台だったのが、100円台まで急落しています。
この当時、個人向けFX市場は存在しませんでしたが、仮に存在していたら、売り取引で大幅な利食いを狙えました(スワップポイント損がありますので、話は簡単でないですが)。
バブル崩壊から円高へ
そして、1990年代前半以降は、レンジで推移していることが分かります。
では、1990年代前半に何があったか?ですが、バブル崩壊です。バブル経済までは、日本経済は飛ぶ鳥を落とす勢いだったということです。
ところが、バブル崩壊後、日本経済の成長は鈍化しました。すなわち、円高圧力がなくなり、レンジに移行したと考えられます。
レンジと言っても、120円~250円くらいの範囲ですから、大きなレンジです。
1990年代前半以降【30年チャート】ポンド/円120円~250円のレンジ相場
FXトレードを考える場合、バブル崩壊以前の為替レートはあまり価値がなさそうです。ポンド/円=500円台の頃のデータを分析しても、トレードに反映するのは難しいです。
そこで、1990年代前半以降のチャートを確認しましょう(それでも30年チャートですから、十分に長期です)。先ほどはラインチャートでしたが、ローソク足チャートにしています。
30年チャートを見ますと、やや円高傾向ながら、全体としてはレンジ相場になっていると分かります。
超円高が起きるとき
そして、ポンド/円の特徴を把握するために、赤数字1~4を追記しました。いずれも急激に円高になっています。何があったのでしょうか。
- 1990年代前半:バブル崩壊(長期的な円高が継続中)
- 1998年頃:アジア経済危機
- 2007年以降:サブプライムローン問題やリーマンショックなど
- 2016年頃:イギリスのEU離脱国民投票
上の4つのうち、日本が主役(?)となったのはバブル崩壊のみです。2はアジア地域全体、3はアメリカ合衆国、そして4はイギリスとEU諸国です。
しかし、いずれの場合も、大きな円高で反応しています。
すなわち、(確定的には言えませんが)今後も何か世界のどこかで大きなイベントが起きる場合、円安よりも円高に警戒が必要だと言えそうです。しかも、数円というレベルでなく、数十円以上の値動きです。
円安後の超円高
また、上のチャートの2~4の数字には、ある特徴があると分かります。それは、年単位で大きな円安になった後に、一気の円高がやってきたという点です。
(数字1については、1973年以降の円高の継続だとみなせますので、除きます。)
この点も、トレードに際して重要な示唆を与えてくれます。すなわち、「何年も円安になっているし、ポンド/円を大きく買って長期保有してみよう」というのは悪手の可能性があります。
大きく買うのは構いませんし、長期保有を志向するのも問題ありませんが、何年も円安だから今後も円安だ!と考えると、問題含みかもしれません。
すぐに逃げられる準備をしつつ、買うことが大切です。
2001年以降【20年チャート】過去20年を4分割で振り返ると
さらに表示期間を狭くして、チャートを確認しましょう。20年チャートです。
20年でも十分に長期ですが、今までの超長期チャートに比べて、やや細かい部分まで値動きが見えてきます。
ここでも、チャートに4つの文字(A~D)を振りました。それぞれの特徴を見ていきましょう。
期間A(2001年~2007年)
2001年からの推移を見ますと、なだらかに円安傾向だと分かります。この時期、日本のFX市場では、スワップポイント狙いが大いに流行しました。
2005年頃の「くりっく365」の実績値を見ますと、ポンド/円を1万通貨買うときのスワップポイントは、1日あたり250円前後でした。2007年には、330円を超えていました。
すなわち、1万通貨買って保有するだけで、毎月1万円をもらえたという計算になります。スワップポイント狙いが流行したのは自然な成り行きです。
期間B(2007年~2012年)
良い時期は永続しないというのは、FXでも同様のようです。スワップポイント狙いのポジションを持っていたら、この時期は厳しいです。
円高になった直接の原因は、米国のサブプライムローン問題です。それが米国のみならず世界全体に波及していきました。そして、2008年のリーマンショックへとつながります。
ポンド/円は最大で250円くらいでしたが、短期間のうちに120円前後まで円高になりました。
一気に為替レートが半分になってしまいましたので、レバレッジを2倍よりも大きくしてスワップポイント狙いをしていた人は、概ね損切りになってしまったと予想できます。
逆に、下落トレンドに乗れれば、最良の展開でした。
期間C(2012年~2015年)
2009年以降もダラダラと円高になりましたが、2012年のアベノミクスから一気に様相が変わりました。190円くらいまで一気の円安です。
アベノミクスで大きく買えれば、スワップポイントとの両取りで良い気分です。
期間D(2015年~)
期間Cが継続して200円を目指すか…!だったのですが、2015年半ばから円高転換。
その流れを決定的にしたのが、2016年6月に実施された、イギリスのEU離脱を問う国民投票でした。
イギリスでは、稀に重要な国民投票が実施されます。2014年には、スコットランドがイギリスから独立するかどうかを巡って、住民投票が実施されました(独立は否決)。
2016年の国民投票でも、「あれこれ言っても、結局はEU残留で決まりでしょう(でも、投票だから何があるか分からないけれど)」という雰囲気でした。
しかし、投票してみたら、僅差とは言え離脱派の勝利。これを受けて、1日で30円(3,000銭)近い円高になるなど、相場は大荒れでした。
その後のポンド/円は反発力が弱く、歴史的円高の水準で推移しています。
EU離脱を巡る国民投票以降
さらに、表示期間を短くしましょう。EU離脱を巡る国民投票以降です。下のチャートの左端で、一気の円高になっている様子が分かります。
今まで見てきたチャートと比較しますと、印象が大きく異なります。
すなわち、国民投票終了後は比較的狭いレンジで推移しており、狭い範囲内で大きく上下動しています。
また、円安に反発する力が失われていることも分かります。今まで見てきた長期チャートでは、円安局面の上昇幅は100円(10,000銭)前後でした。
ところが、2016年後半から2017年にかけての円安局面を見ますと、上昇幅は30円(3,000銭)くらいにとどまっています。
これが「たまたま」でなく、長期的な傾向と一致するならば、日本と比較してイギリスの長期的な国力は減退しているという示唆になります。
為替レートの動きを見る限り、市場は、EU離脱はイギリスの国力を奪うと判断しているようです。実際にどうなのか、今後数年~10年以上経過したら明らかになるでしょう。
FXでトレードする視点で考えますと、「正解は10年後!」では遅すぎます。
よって、現状は円安への反発力が弱いことを前提において、円高警戒で取引する場面が多くなるのでは?と想定できます。
【ポンド/円】トレード方針
以上、ポンド/円の長期チャートを確認しました。この内容を受けた長期トレード方針を考察します。
確認できた主な特徴は、以下の通りです(バブル崩壊以降)。
- 円安と円高の振れ幅が大きい
- 日本やイギリスが起因でないショックでも、ポンド/円は円高
- 2016年以降の円安反発力が弱い
- 2016年以降、レンジのような動き
上の諸点を見ますと、直近は円高警戒のように見えます。では、売りを中心に考えれば良いか?ですが、そうとも言えません。
下のチャートに赤線を引きました。下値支持線(サポートライン)です。
リーマンショック後、この赤線が下値支持線として機能しています。すなわち、為替レートがこの辺りまで円高になると、なぜか反発して円安になっています。
そこで、この反発を狙うことにより、10円(1,000銭)以上の利幅を狙うことが可能です。
なお、レンジと言っても、過去30年全体を見ますと、やや円高で推移している様子も分かります。すなわち、下値支持線を突き抜けて円高になる可能性もあります。
そこで、以下の長期トレード方針(案)を検討できます。
【ポンド/円】長期トレード
トレード案1
下値支持線に近づいたら、買いを狙う。ただし、インジケーターなどを使って、買い示唆を得られた時点で買う(損切り注文も忘れずに)。
トレード案2
2016年以降はレンジになっているので、リピート系FXで積極的に利食いを狙う(EU離脱問題が報道されるたびに乱高下するので、利食い機会が多め)。
トレード案3
下値支持線を下方向に抜けたところを狙って、売りのトレード。
この中で異色なのは、トレード案2のリピート系FXでしょう。と言いますのは、長期視点でトレードを考察していますが、相場状況次第で、短期間のうちに利食いを繰り返せるからです。
【ポンド/円】スワップポイントの推移
中長期トレードに際し、無視できないのがスワップポイントです。
2000年代のような、1万通貨持つだけで300円前後もスワップポイントがつく場合、買いやすい一方で売りづらくなります。
FX会社ごとにスワップポイントの大きさは異なりますので、便宜的に日英の政策金利を比較します。
スワップポイントは短期金利差で決まるもので、政策金利差ではありません。しかし、政策金利は短期金利に大きな影響を与えますので、参考指標にできます。
グラフを見ますと、2008年のリーマンショックがいかに大事件だったかが良く分かります。5%前後だった政策金利が、一気に1%を割り込んでいる様子が分かります。
このグラフで重要なのは、2点でしょう。
- リーマンショック後の日英政策金利差は、小さい
- イギリスの政策金利は、日本の政策金利よりも継続的に高い
日英の政策金利差が小さいということは、ポンド/円を買っても売ってもスワップポイントは小さいということです。
すなわち、スワップ損は小さいので、売りの取引がしやすくなります。デイトレードの場合、スワップポイント損は無視できますが、スイングトレードになると、少々気になります。
スイングトレードでもスワップポイント損を無視(または軽視)できるのは、メリットが大きいです。もう一つの点、イギリスの政策金利が常に日本よりも大きい数字で推移しているというのも、見逃せない点です。
長期チャートの下値支持線あたりで買って、何か月以上も保有する場合、スワップポイントがマイナスだと落ち着きません。数字が小さいとはいえプラスだと、長期保有しやすいです。
将来のスワップポイントを確実に見通すことは、困難です。しかし、過去の推移から判断すると、今後もポンド/円を買えばスワップポイントがプラスになってくれるのでは?と期待できます。
【ポンド/円】デイトレード~スイングトレード
最後に、デイトレードからスイングトレードについて考察します。これらのトレード手法の場合、主に日足チャートまたはそれよりも短い時間足でチャート分析します。
よって、状況は日々変化します。そこで、「1日あたりの高値と安値の差」で取引のしやすさを見ていきます。
下は、2020年1月初日~2020年9月末日における、日足の高値と安値の差の平均値を出したものです。一番右の倍率は、「ポンド/円の値動きは米ドル/円の何倍か?」を示したものです。
値動きが大きい方が、利食い機会に恵まれます。
- | 米ドル/円 | ポンド/円 | 倍率 |
---|---|---|---|
1月 | 51銭 | 117銭 | 2.28 |
2月 | 74銭 | 127銭 | 1.72 |
3月 | 204銭 | 296銭 | 1.45 |
4月 | 75銭 | 129銭 | 1.72 |
5月 | 57銭 | 132銭 | 2.28 |
6月 | 70銭 | 162銭 | 2.30 |
7月 | 64銭 | 102銭 | 1.59 |
8月 | 72銭 | 107銭 | 1.49 |
9月 | 51銭 | 140銭 | 2.72 |
全体 | 80銭 | 146銭 | 1.82 |
【ポンド/円】新型コロナウイルスでの為替の動き【2020年3月】
表を見ますと、3月だけ、異常値のようになっています。これは、新型コロナウイルス問題を受けて相場が急落したためです。
下の日足チャートは、2020年1月から2020年9月までのポンド/円です。チャート左側で大きく円高になっていますが、これが新型コロナウイルス問題を受けた値動きです。
新型コロナウイルス問題を受けた急落は大きかったですが、その後、上下動を繰り返しながら徐々に元の位置に戻りつつある様子が分かります。
ポンド/円と米ドル/円の比較
では、ポンド/円と米ドル/円の値動きを比較してみましょう。どの月を見ても、ポンド/円の値動きの方が大きいことが分かります。
倍率の欄を見ますと、米ドル/円に比べて2倍以上の値動きになっている月が珍しくなく、全体として1.8倍の値動きです。
短期トレードでも中期トレードでも、値動きがある方が利食い機会も多くなります。すなわち、デイトレードやスイングトレードで積極的な値動きを狙いたい場合は、米ドル/円よりもポンド/円の方が良さそうです。
ただし、ポンド/円の値動きが大きいのには、理由があります。EUからの離脱交渉が難航していて、報道があるたびに為替レートが動くことが、理由の一つです。
報道を受けて値動きするという場合、スイングトレードよりもデイトレードの方が有利かもしれません。
【ポンド/円】まとめ
ポンド/円はイベントに反応して大きく動く傾向にありますので、大きな利幅を狙うのに適していると言えそうです(その分、損失リスクも高くなりますので注意)。